【6月・7月】つかさや旅館のお料理のご紹介
湯田川、夏のはじまり — つかさやの六月と七月
こんにちは、つかさや旅館の若旦那です。
5月の湯田川は、まさに「孟宗一色」。
土からまだ顔を出さない頃合いの竹の子を、姫皮から穂先、根の硬い部分まで使い切って、お客様にお出ししています。
最後は二日かけて炊き上げる名物の孟宗汁で締めくくる――それが、湯田川の春の食卓です。
そんな孟宗の季節が静かに終わると、つかさや旅館は新しい季節を迎えます。
今日は、つかさやの六月と七月の食卓についてお話しさせてください。
🌿 六月:山菜が、最後の挨拶をする
六月の前菜には、山菜がそっと顔を出します。
わらび、うるい、赤みず、ふき。
雪解けの春を生きた山の恵みたちが、孟宗に主役を譲っていた季節を経て、
ようやく前に出てくる――そんなイメージです。
わらびは一晩かけてあく抜きをしてから、生姜醤油で。
うるいは、やや甘めの酢味噌で和える。
配合は、女将の塩梅にゆだねられています。
レシピの数字よりも、その日の素材の状態を見て決まる味。これが、つかさやの調味の流儀なんです。
そして、もうひとつ。山菜と一緒によく登場するのが「けんちん」という料理。
一般的にはお豆腐の入った汁物を思い浮かべるかもしれませんが、庄内のけんちんはちょっと違います。
こちらでは、けんちんといえば炒め物、もしくは炒め煮のこと。
山菜、薄揚げ、人参を、鰹と昆布のお出汁で軽く合わせる、素朴な一品です。
赤みずのけんちん、蕗のけんちん――六月の前菜に並ぶ女将の自慢の料理です。

🐟 由良の海と、海瑞丸という船
つかさやの食卓に並ぶ魚介は、多くが由良漁港から届きます。
鼠ヶ関や酒田から届くものも、県外の海から届くものもあります。
魚屋さんに、その日に欲しい魚を伝える。
魚屋さんが市場で見繕って届けてくれる、その日の海の表情。
やり取りはシンプルなのですが、そのなかに一艘、私が特に目を留める漁船があります。
「海瑞丸」
船長は、私の高校時代のサッカー部の仲間なんです。
市場に海瑞丸の魚が並んでいると聞くと、迷わずそれを選びます。
土地の食卓を支えるのは、土地の人。
仲間が獲った魚が、十代続く宿の夕食の主役になる。そんなご縁から生まれる一皿を、お客様にお届けしています。
🌊 海が休む夏、食卓も衣替えする
七月になると、海の景色がぐっと変わります。
庄内地方では、毎年七月から八月まで、底引き網漁が禁漁になります。
沖合の深場で獲れる魚介は、しばし市場から姿を消す。代わりに増えてくるのが、浅瀬・磯モノです。
それは、つかさやの食卓にも、はっきりと反映されます。
六月までの前菜の柱だった「黒バイ貝の旨煮」
――沖合の深場で獲れる、大ぶりでうま味の濃い貝。色が黒く、味も濃い。
だから醤油で甘辛く煮含めて、夏の前菜の入り口にしていました。
七月の半ばを過ぎる頃、その隣に「西貝(にしがい)」が並びはじめます。
こちらは浅瀬の貝。色が淡く、緑がかった肌をしています。
深場の貝のような重さはありませんが、ちょっと甘みのある、清々しい味わいなんです。
つかさやでは、この西貝を塩だけで茹でてお出しします。
色の濃い黒バイ貝には醤油を、色の淡い西貝には塩を。
素材の色と、味付けの色を合わせる――これは五月の孟宗から続く、つかさやの調味の感覚です。
そして、もうひとつ。庄内では昔から馴染みの深い貝、「笑貝(えがい)」
僕らは「えげ」とも呼ばれます。ムール貝に似た姿の、いい出汁の出る貝です。
七月の食卓では、つるむらさきやモロヘイヤと合わせるお椀。
海が休む夏。それは、別の海の表情に出会う夏でもあります。
🍆 緑茄子という、夕食の主役
七月のつかさやで、ぜひ覚えていただきたい野菜があります。
緑茄子(みどりなす)。
皮が黒紫ではなく、本当に緑色をしているんです。
LINEのマークの色より、もう少し淡い緑。庄内では珍しい品種で、湯田川の「すくすくやさい」さんが育ててくれています。
特徴は、その柔らかさ。火を通すと、とろりと溶ける――そんな食感です。
つかさやでは、揚げてから、鰹と昆布のお出汁でさっと煮て、とろみをつけてお出しします。
一緒に入れるのは、その日の畑から届くだだちゃ豆、いんげん、アスパラ、とうもろこしなど。
味付けには、白醤油を使います。薄口醤油では、緑茄子の繊細な緑色が濁ってしまうから。
素材の色を守るために、調味料の色まで選ぶ――こだわりの一品です。
七月、つかさやのコースのなかで、お肉やお魚の主菜と並んで、この緑茄子の揚げ煮餡が一皿の主役を担います。
野菜が「メインの一つ」になる――それが、つかさやの夏の献立。
🦪 岩牡蠣が、夏のはじまりを告げる
底引き網が休む夏、磯の主役がもうひとつ。
岩牡蠣です。
つかさやでは、毎年六月中旬から七月末までの限られた期間、岩牡蠣プラン、
または岩牡蠣のオプションをご用意しています。
岩牡蠣は、なかなか難しい食材です。
立派なものはこぶし二つほどの大きさになりますが、開けてみるまで中身がわからない。
だから、いつも多めに仕入れる必要があるんです。
そして、よい牡蠣をお出しするためには、複数の海と繋がっている必要があります。
山形県内の遊佐、酒田、由良、鼠ヶ関。そして県境を越えて、新潟の山北、秋田の男鹿。
値段と、大きさと、その日の状況で、産地を決めています。
提供は、生、蒸し、焼き、それぞれをコースの中で別々に。
一皿で三種盛りにはしません。
生で素材そのものを、蒸しでうま味の凝縮を、焼きで香ばしさを。
岩牡蠣がコースの中に登場します。
添えるのは、国産レモン、万能ねぎ。時期が間に合えば、地物の夏みょうがも。
夏の食卓に、岩牡蠣のひと匙。海と人と季節の重なりが、その一口にぎゅっと詰まっているんです。

🌱 つるむらさき、モロヘイヤ、夕顔
七月の食卓には、夏の葉物が並びます。
鶴岡の上郷地区で育てられるつるむらさきとモロヘイヤ。
粘りのある、力強い夏の葉物です。お出汁をたっぷり張ったお椀に、たっぷり浮かべてお出しします。
葉物の粘りが、鰹昆布のお出汁を引き立て、お椀のなかで夏の静かな旨味が広がります。
そして、湯田川の畑から届く夕顔――この時期だけの瓜の仲間です。
つかさやでは、茹でた夕顔に、鶏ひき肉と大葉を混ぜた餡をかけてお出しします。
女将の手で、その日の調子に合わせて餡が仕立てられる。とろりとした夕顔の食感と、餡のとろみが重なる、静かな一品です。
夕顔は、まさに旬のもの。湯田川の七月の畑だけが見せる、短い季節の贈り物なんですよ。
🐖 山伏ポーク、二日かけて塩豚に
七月、つかさやの主菜の一つに、山伏ポークの「塩豚 夏野菜と共に」が並びます。
山伏ポークは、羽黒山の麓で育つ豚。庄内柿を食べて育っています。
冬から春にかけては「角煮」として、女将手作りの梅干しを隠し味にして甘辛く煮含めますが、夏は塩豚に。
野菜が一番おいしい季節。だから、シンプルに肉と野菜を味わってもらいたい。
塩豚は、二日かけて山椒・白醤油・塩で漬け込み、低温でじっくり火を通します。
野菜が主役の夏の一皿の脇で、山伏ポークが静かに肉の旨味を添える。
湯田川の畑の野菜と、羽黒の山伏ポーク――山と里が出会う、夏の主菜です。

🌽 〆のごはんに、季節がバトンを渡す
つかさやの夕食の〆は、いつもごはんと味噌汁、それから孟宗の佃煮と漬物です。
そのごはんが、季節とともに動いていきます。
五月から六月の前半までは、孟宗の炊き込みごはん。
六月後半から、グリーンピースが入る日もあります。
そして、その年初めての美味しいとうもろこしが届いた日――炊き込みごはんが、とうもろこしごはんに切り替わります。
七月の半ばごろからは、枝豆をお出しします。おつなひめ、湯上り娘といった品種の枝豆。
塩茹でで、夏のはじまりの香りを楽しんでいただきます。
そして七月の後半。いよいよ献立にだだちゃ豆が登場します。
鶴岡の特定の品種だけが名乗ることを許された、特別な枝豆。最初は早生の「早生甘露(わせかんろ)」から。
とうもろこしと、だだちゃ豆。二つの素材が出会うほんの数日、つかさやの〆のごはんには、その両方が一緒に炊き込まれます。
「美味しい素材が揃った時季には、両方を一緒に炊く」――一つの素材を待つのではなく、出会いを楽しむ。やがてだだちゃ豆が本格化するにつれ、ごはんはだだちゃ豆の季節へと進んでいきます。
季節が、〆のごはんで静かにバトンを渡し合う。そんな夏のひとときです。
湯田川の夏のはじまりに、ぜひ一度お越しください。山菜の最後の挨拶と、海が休む夏の静かな衣替え。
緑色の茄子と、岩牡蠣の三つの章。夕顔の餡と、塩豚と、季節がバトンを渡す〆のごはん。
皆さんの「美味しいね」という笑顔に、湯田川でお会いできるのを楽しみにしています。
湯田川温泉 つかさや旅館